ご注意
にょた話です。独が女の子で、普と独が師弟関係という大変特殊な設定です。
noteでちょっと載せたにょ独の本編というか、ちょっと小説っぽい書き方をしてみました。
地の文での人称代名詞(三人称)をどうしようかと悩んだ結果、独の一人称で書いてみました。「彼女」は変な感じがするので。
女の子設定ですが、一人称は「俺」のままです。プーのうっかりミスで男として育てられた結果、男言葉が定着しちゃったため、という苦しい言い訳をしておきます……。
独視点のためか、独が普に片思いしているかのような話になってしまいました。
独が女の子な上、普との出会いを激しく捏造しているというすごく特殊な話なので、苦手な方は絶対絶対絶対この先へ進まないでください。お願いします。
にょ独OK!な勇者の方はスクロールどうぞ↓
最低の初対面
彼との出会いは忘れもしない。もう何世紀も昔のことだが、いまでも色褪せない記憶だ。
なぜなら、忘れられるはずもない鮮烈な思い出だからだ。
彼と会う数日前、上司に呼び出された俺は、それまで名前と噂しか知らなかった彼について、幾許かの情報を与えられた。そして、彼に師事するよう命じられた。それについて不満はなかった。耳朶に触れる彼の噂は、どれも子供を惹きつけるに十分なものだったから。物語の世界に没頭する幼子のように、俺は彼がこれまでに残してきた数々の足跡――すべてがすべて成功の話ではなかったが、無敵でないところがまたある種の現実感を与えたのだった――に聞き入っていたのだった。
彼は今日ここへ来る。おまえに会うために。
上司の説明を受け、騎士の正装に身を包んだ俺は指定された部屋で彼の来訪を待った。もっとも、そのとき俺がいた場所は、彼が拠点としている城のひとつだったので、来客はむしろ俺のほうだったのだが。
いったいどんな人物なのだろう。俺をどう思っているのだろう。予想と希望と不安をない交ぜにして、俺は彼が訪れるのをいまかいまかと構えていた。待ち時間は多分三十分にも満たなかっただろう。けれども時の流れを遅く感じる子供にとって、それは何十時間にも匹敵する長さだった。
やがて、ノックもそこそこに勢いよくドアが開かれた。
姿を見せたのは、略式の正装をした背の高い金髪の青年だった。
いや、当時の彼は少年と青年の中間くらいだったかもしれない。背もきっと、それほど高くはなかった。だが幼かった俺の目には、ずいぶんと大きな大人に見えた。
彼の双眸が俺の姿をまっすぐとらえたのかわかった。
俺は、彼がどんな反応をするのかと、緊張して相手を見つめ返した。彼の瞳は強かった。
つかつかと部屋の中央までやってきて俺の中央に立った彼は、上から下まで舐めるように凝視したあと、奇妙なことにほっと胸を撫で下ろすと、安堵をにじませた声で言ってきた。
「おまえがドイツか。なんだ、やっぱ男じゃん! あの上司、何を勘違いしてたんだか」
開口一番、奇妙な言葉を聞いた気がする。
この男、いま、なんて言った?
俺はいささか自分の耳を疑いながらも、控えめに呟いた。
「あ、いや、自分は……」
「失礼な上司だよなー、たとえ小さくたってどこからどう見ても立派な男だってのに。どこに女と間違える要素があるってんだ」
聞き間違えではなかったらしい。止めを刺すがごとく、彼はきっぱりはっきりそう言った。
俺が彼に掛けられた最初の言葉は、性別を思い切り間違えたとんでもない発言だった。
確かに俺は男の騎士と同じ格好をしていたし、髪も短かったから、勘違いするのは仕方なかったのかもしれない。……が、あらかじめ上司に女児だと聞いていたのに、本人の姿を見た途端男だと思い込むやつがあるか!? 少しは疑問に思え! なぜ、もしかしたらこんな見た目でも女なのかもしれないと疑ってかからない! 上司から情報を与えられていたなら、疑う余地くらいあるだろうに。そんなに俺は男らしいのか……?
そんなわけで、彼と俺との出会いは最悪だったと言わざるを得ない。しかし、いま思い返すからそのように感じるわけで、当時の俺は失望というよりはただただショックに呆然とするだけだった。まあ、初対面で性別を取り違えられたら誰だって衝撃を受けるだろう。まったくもって失礼極まりない。
だが、俺にとっての彼の第一印象が最悪だったかと言えば、実はそうでもなかった――不本意なことにな。俺のショックは男に間違えられたことや、こんな見る目のない男が自分の先輩なのか、という思いに立脚したものではなかった。
俺がショックだったのは、このあと彼に言われた台詞だった。
「いやあ、でも安心したぜ、正直ほんとに女児だったらどうしようかと思ってたんだ。いやあ、よかったよかった」
「え……」
彼のこのような発言の真意は後になって判明するのだが、このとき俺は解釈を誤ってしまった。まだ彼のことを知らなかったからその心理を推測することなどできなかったし、第一そのような高度な思考ができるほどの年でもなかった。
俺は彼の言葉に殴られ硬直していたのだが、幸か不幸か感情が表情に出にくい性質なので、きっと少しばかりきょとんとした顔をしているだけだったのだろう。彼は何の遠慮も配慮もなく、よくしゃべる口でぺらぺらと言ってきた。
「だって女なんて扱いにくいじゃん? 鍛えるならやっぱ男だろ。へっ、なかなかいいツラしてるじゃねえか。おまえは鍛え甲斐がありそうだ。俺並みの男前に仕立て上げてやるぜ、楽しみにしてな」
彼は――とてもいい笑顔でそう俺に告げてきた。野心的でもあり、同時に少年的な純粋さの窺える表情だった。その屈託のない笑顔は、俺のショックを何秒かの間忘却の彼方へと追いやった。俺の頭髪をくしゃくしゃと乱暴に撫でながら笑う彼がまぶしかった。男前にしてやる、と宣言した彼の手の平は、剣を握り続けたためにできた肉刺で硬く厚く、ぱっと見の印象よりずっと男性的だった。
その硬い手の平から伝わってきたのは――俺の自意識過剰でなければ――期待だった。
彼は俺に期待している。そう感じた。
そして、若いというよりはまだ幼くて、思考回路の単純だった俺は、瞬間的に思った。彼の期待に応えなければ、と。
いや、それは思考ではなく感情だったのかもしれない。初対面のちっぽけな子供を、こんなので大丈夫かと馬鹿にすることなく、将来を見込み、信じて期待を掛けてくれることが嬉しかったのだろう。俺は、そんな彼に応えたいと感じたのだった。
彼の勘違いによる発言はいくらか少女の心を傷つけたかもしれない。けれどもそれ以上に、彼の言葉や態度は子供心を震わせたのだ。
俺のことを男だと信じて疑おうとしない彼に戸惑いつつも、彼の期待の言葉に舞い上がっていたらしい俺は、とっさに、
「そうか……よろしく頼む。あなたは私……俺の同胞たちの中でも相当優秀だと聞いている。いろいろと享受願いたいと思っていたんだ」
彼の思い込みを肯定してしまった。今風に言えば、変に空気を読んだということになるのだろうか。俺は、彼の勘違いをいち早く察知すると、それに対して早急に適応したのだった。
もっとも、無遠慮で押しの強い大人に対してはっきり否定の言葉を伝えられなかっただけなのかもしれないが。彼に向けて強い態度に出られないのは、出会ったときから変わっていない。あるいは、このとき妙なかたちで譲歩してしまったから、このあとの関係が決定されてしまったのだろうか。
ともあれ、このときの俺の応対はその後長らく尾を引くこととなり、一時期、俺たちの間に途方もないわだかまりをつくることとなった。いっそ欺き続けることができたならよかったのだが、彼の元で鍛えられ、成長していった俺にはそれが徐々に難しくなっていった……だが、それはまあ、別の話だ。
俺の返事を聞いた彼は、満足そうに笑いながら、より一層、俺の頭髪を掻き混ぜたのだった。
「はは、真っ先に俺に目ぇつけるとはいい選択眼だ。気に入ったぜ。おまえは絶対強くなる。いい男にもな」
ひょい、と彼は俺の体を軽々抱き上げた。数瞬の不安定に揺られた後、俺はおずおずと彼の首に腕を回してバランスを取りながら答えた。
「ああ……そうなれるよう、努力は惜しまない」
いい返事だ――彼は楽しそうに、無邪気な笑い声を立てた。
自分を抱く彼の腕がひどく頼もしく感じられた。そして、それに追いつくためならば、俺はどんな試練にも耐えられるだろう。そんな予感を覚えながら、俺は腕の力を強くした。男と間違えられたことさえ、このときばかりはきっと嬉しかった。
このほうが彼の希望にそうことができる。幼くて愚かだった俺は、単純にそんなふうに考えたに違いない。その後、何年も何十年も彼を欺くことになるなんて、そのときは予測していなかった。遠い未来予想図を描けるような思考能力はまだなく、幼い子供にとっては現在とその前後のいくらかの時間だけが現実だった。だから、そのときその場所で彼が俺の返事に満足そうに笑ったという事実が、その瞬間における俺のすべてだったに違いない。……なんて幼かったのだろう。そして、幸せだったのだろう。
認めるのは悔しいが、認めざるを得ないだろう。子供だった俺は、確かに彼に強い憧憬の念を抱いていたのだ。いつか自分も彼のようになれると、漠然と思うだけだった。その単純さは、ある意味で俺たちに一時の幸福をもたらしたのかもしれない。彼の指導は厳しかったが、それでも俺にとっては、彼が俺とその先にある未来を信じて鍛錬を与えているということが嬉しかったのだ。
プロイセン。
あなたは俺の憧れであり目標であり未来であり、父であり兄であり、先輩であり、何より師であった。
……そのあなたを否定しなければならない日が来るなんて、俺は思ってもみなかった。
思いもしませんでした――先生。
突発的に書いた話なので、続きは特に考えてないです、すみません。
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