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捏造注意!
ものすごくぶっ飛んだ捏造設定を使った話です。ご注意ください。
普=カリーニングラードの設定ですが、カリグラシリーズとは別物です。あちらに比べるとライトだと思います。
再統一後のドイツ一家(BRD)に、ロシアの小間使いな普が乗り込んでくる話です。
ザクセンのほかに捏造ブランデンブルクが出てきます。
蒸発していたお父さんが50年ぶりに家に帰ってきた!みたいな擬似家族ネタです。(普とブランデンブルクが夫婦、独が子供、ザクセンが叔父さん)
コンセプトは「みんなで下の子(独)をかわいがろう」です。

捏造ブランデンブルクの設定(要反転)
実はいるプロイセンの片割れ(双子ではなく親戚)。上司の都合で17世紀に結婚。WW2後に離婚。というか、未亡人状態。旧DDRの一員。
性別:男性
外見:プロイセンのドッペルゲンガー(色違い)
性格:おとなしい、ほとんどしゃべらない
身体能力:プロイセンと一緒
備考:プロイセンから不憫と三枚目要素を除去して水で30倍に薄めた感じ。加さんより存在を忘れられがちで、埃さんよりも無口。
一言で表すと、寡黙なプロイセン。



苦手な方は全力でお逃げください。お願いします。
大丈夫!な方はこのままどうぞ↓





ドイツと親戚のお兄さんたち 1



 時刻は十四時十五分前。
 そろそろか。
 事務室で腕時計を確認したドイツは、席を立って部屋を出ると、隣の休憩室を覗いた。よお、とザクセンが挨拶を返してきた。依頼どおり、ちゃんとフォーマルな服装だった。ドイツは手招きで合図をすると、彼とともに廊下を歩いた。
 会議に指定された部屋に向かう途中、横に並んで歩いていたザクセンが話しかけてきた。
「なあ、どうして今日俺呼び出されたんだ? 外交関係は基本おまえが担当ってことになってるじゃん?」
 協力はやぶさかじゃないけどさ、と断りを入れつつ、首をひねるザクセン。ドイツは歩調を保ったまま申し訳なさそうに首をすくめた。
「ああ、急遽頼んで悪かった。俺も昨日に聞いたばかりなんだが、今回はブランデンブルクが同席するとのことだ。それなら通訳が必要だろう」
 ドイツの説明に、ザクセンが納得のため息をついた。
「ああ……あいつまじでしゃべんないもんな。昔は――ってか、プロイセンのやつと結婚するまではまともだったのに……あの口から生まれた騒音男がしゃべりすぎるせいか、めっきり無口になっちゃったんだよなー。おしゃべりエネルギーを吸い取られたとしか思えん。いまじゃ、初対面のやつが三十分あいつとふたりきりにされたら気が狂うってまことしやかに噂されるくらいだし。慣れりゃけっこうわかるけど」
 と、文句とも批評ともつかない弁舌をふるったところで、ふいにザクセンが声音を変えた。彼は思い出したようにドイツに尋ねる。
「あれ? けどさ、おまえだってあいつと意思の疎通できるじゃん? むしろ俺よりわかるくらいだろ」
 わざわざ俺を呼ぶ必要はなかったんじゃないか、と言外に聞く。が、ドイツは大きくゆっくりとした動作で首を左右に振って否定の意を表した。
「話し合いをしつつ、しゃべらないやつの意図を汲んで通訳するのは大変なんだ」
「確かに」
 ブランデンブルクの寡黙ぶりを知っているザクセンは、実感を込めておおいにうなずいた。あまりに長い間、彼が話しているところに出くわしたためしがないので、もはや彼がどんな声でどんな口調で話すのか、記憶が曖昧になっている。思い出そうとすれば、浮かび上がるのはプロイセンのほうだ。半世紀前から見ていない顔だが、彼の高笑いや悪っぽい顔、耳うるさい話しっぷりは、いやに鮮明に脳裏に焼きついている。
 懐かしさと同時に寂寞が胸をよぎる。あのうっとうしい笑い声を聞くことがもうないのかと思うと、寂しさを感じないではなかった。プロイセン相手にそんな感情が湧くなんて、ちょっぴり悔しかったが。しかし、そういった諸々の喪失感や寂寥感にもすでに慣れて久しい。でなければ、ドイツの前でこうして彼の名を口にすることはできなかっただろう。
 そういやこいつ、プロイセンが姿を消したショックで一時期荒れてたっけ。
 何十年か昔の出来事を思い返し、ザクセンはドイツに悟られないよう胸中で苦笑した。多少手こずらされはしたが、過ぎ去ってしまえばそんな時代もあったと微笑ましく思えるのは年長者の特権なのだろうか。ドイツのほうは自分が少々やさぐれていた時期のことを気にしているらしく、話題に出すといまだに気まずそうに顔をしかめるのだった。
 突き当りを右に折れると、数メートル先に階段が見えた。そこを下りればすぐに小会議室だ。
「でも緊張するなー、今日の相手、ロシアだろ? 正直全然いい思い出ないんだよな……」
 横髪を掻き上げつつぼやくザクセンの顔色は心なしか優れない。ドイツは申し訳なさそうに眉を下げた。
「四十年間の苦労を思うと忍びない限りだが、ここはひとつ耐えてくれ。それに、今日はロシアは来ない」
「へ? なんで?」
 きょとんとしたザクセンが思わず立ち止まる。ドイツは階段を一段降りた中途半端な姿勢で振り返った。
「代理人を寄越すそうだ」
「代理人?」
「どちらかと言うと、当事者と呼ぶべきかもしれないが。今度、カリーニングラード州にうちの領事館を設置する話が持ち上がっているだろう? それなら彼本人と話したほうがいいだろうということらしい」
 ああ、と納得しかけたザクセンだが、ドイツの発言内の固有名詞を反芻したところではたと気づく。
「って、あそこプロイセンの実家じゃん」
 ついさっきまで回想していた相手と関わり深い土地が出てきたことに驚く。そういえば今日はそのことで会談の席を設けたんだっけ、といまさらながら思い出す。一応議題についての情報は事前に教えられていたが、自分が直接関与することはないと思っていたため、あまり頭に入っていなかった。
 ザクセンの様子を察したドイツが説明を加える。
「ああ、だからブランデンブルクも出席するんだ。前々から手を貸していたし」
「元旦那の実家だもんなあ。あいつらなんだかんだで仲良かったし」
 ザクセンが顎に手を当ててううむとうなった。プロイセンとブランデンブルク。上司の都合により結びついたふたりは、明らかに性格の不一致があるだろうに、意外にもうまくやっていた。もっとも、その後プロイセンが表舞台に立ちすぎたため、ブランデンブルクの影が薄くなりがちだったが。あまりに出てこないので、仲間内でさえしばしばレアモンスター扱いされる始末だった。まあ、一方が全方位指向性のスピーカー並にうるさい分、もう片方が窒素のごとく目立たないのは、バランスが取れたいい組み合わせだったのかもしれないが。
 ほんと、いいコンビだったのに……としみじみ思ったところで、ザクセンがはっと目を見開き、同様に瞳を揺らした。彼はドイツの上腕を軽く掴むと、慌てた調子で口早に言った。
「ま、まさか、カリーニングラードってプロイセンの子供なんじゃあ……うわあ、だったらブランデンブルクがかわいそうすぎる。三百年も一緒だったんだぞあいつら。喧嘩別れしたわけでもねえし」
 ザクセンの先走った妄想にドイツは少々呆れつつ、階段を降りようと視線で促した。
「おまえの頭の中でどんなメロドラマ的ストーリーが展開されているのか興味を惹かれないではないが……現実はそこまでドラマチックではないと思うぞ」
「だ、だよなあ……事実は小説よりも奇なりっていうけど、そこまで奇抜な展開はないよなあ」
 ザクセンは自分に言い聞かせるように呟くと、ドイツのあとを追って階段のステップを踏んだ。
「あ、そういやブランデンブルクは? どっかで合流するんじゃねえの?」
 このままだと会議の部屋に直行だ。メンバーが揃っていないというのに。
 ザクセンが首をかしげていると、ドイツが肩越しに視線をやりながら答えた。
「彼なら来客の対応に回っている」
「迎えに行ってるってこと? 相手さんを?」
「ああ、珍しく彼のほうからそうしたいとの申し出があってな」
「あの重度のだんまり男に接客がつとまるのか……?」
 浮気現場を妻に摘発された夫でさえ醸し出せないような重苦しい沈黙空間を無意味につくり出すような男が、よりにもよって来客対応。不適材不適所以外の何ものでもない。
 ドイツもそのように認識しているらしく、少し表情を硬くした。あいつ大丈夫だろうか、という不安がにじみ出ている。
「実は少し心配だ」
「俺は超心配だよ。早く行ってやろうぜ。あんなのが相手じゃ、向こうも困ってるだろうし」
 ザクセンはドイツの背をぽんと叩いて軽く急かした。慌てずとも、目的地まではものの数十歩なのだが。
 階段を降り切って左に曲がると、割り当てられた小会議室へはすぐに到着した。
「セッティングはもう済んでんのか? 手ぶらで来ちゃったけど」
「ああ、抜かりはない」
 答えると、ドイツは部屋の扉を引いた。
「む……?」
「あれ?」
 飛び込んできた光景に、ふたりは眉をしかめるとともに首を傾げた。というのも、室内の机の配置がおかしかったからだ。これから実務的な会話を交わす場所にはふさわしからぬ乱れようだった。おそらく元は円状に長机が並べられていたのだろうが、それぞれの角がずれては飛び出しており、ひどく雑然とした印象を受ける。それでも本来の配置の名残はあり、部屋の中央の空間がぽかんと空いている。
 いったい何事だというのか。
 ふたりが顔を見合わせていると、真ん中のスペースからなにやら物音が聞こえてきた。入り口付近の机の死角になって見えなかったが、誰かいるようだ。
 彼らは警戒を掻き立てられつつ、足音を立てないよう慎重に室内に踏み入り、机の向こうを覗こうと首を伸ばした。
 その瞬間。
「――ブルク、ちょ……はは、やめろって、くすぐったいだろ。はははは……ん、あ、あぁ、そこ気持ちいい……やっぱやめんな」
 急に人の声が聞こえたかと思うと、目の前に革靴がにょきっと生えた。人間の脚が突如として下から持ち上がってきたのだった。ダークグレイのウール生地に包まれたそれは、どうやら右脚のようだ。革靴に突っ込まれたつま先は彼らの前で何度かばたつくと、ぱたりと床のほうへ落ちていった。




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