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仏普です。
最初は普仏っぽいですが、逆転します。あと微妙に露普かもしれません。
ものすごく下ネタな上、普がとてもかわいそうな設定なので、苦手な方は絶対絶対絶対読まないでください、お願いします。
苦手な人はほんとまったく受け付けないであろうネタなので、読まれる際は覚悟を決めてください……。
エロくないですが、内容は大人向けです(ほとんどベッドの上…)。高校生以下の方は読まないほうがよいと思われます。

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ひとには言えない 1



 フランスは、自宅の寝室の天井が視界いっぱいに広がっているのを、まるで他人の視点を外から眺めているような――そう、映像としてはハンディカムカメラで撮影されたドラマのワンシーンを見ているような――気分で認識した。
 ――ああ、この清楚で暖かい天井の色と素材は間違いなく俺の部屋だ。ほら、あの天使の微笑みのような柔らかい安らぎのトーン。このセンスはほかのやつには出せないだろう。うん、だからここは俺の部屋で、ついでに言うと寝る場所だ。だってこのマットレス、すっごいなじみあるもん。ああそっか、俺いまから寝るとこだっけ?……あれ、おかしいな、俺、部屋で人と話してたはずなんだけどな。今日は来客があったんだよな。せっかくだし、まあワインでも出してやるよってことになって……えっと、誰が来たんだったかな。なんか珍しいやつが訪ねてきて、なんか俺に話を聞きたいとか言ってきて……それで……。ええと、それでベッドで仰向け……? なんで?
 と、ふいに視界に影が差した。白熱灯の逆光の中に現れたそれを見上げようと、彼は首を持ち上げた。
「おいおいおい……なんだなんだこの状況は?」
 体は重いが、腕は動かせる。彼は両肘をついて上半身を浮かそうとした。が、二十度と持ち上がらない。というのも、腹の上に何かが乗っかっているからだ。
「あー、そっか、プロイセン……おまえ来てたんだっけ。悪いなあ、なんかほろ酔いで寝ちまってたらしい」
「余裕じゃねえか、フランス」
 同じマットレスに乗り上げているプロイセンは、フランスの胴を跨ぐかっこうで膝をついて彼を見下ろした。上着は脱いでいるが、半袖のシャツは着たままだ。下も同様、訪問時と変わった様子はない。相手の服装を観察してから、フランスは自分の胸元に視線を移した。あーあー、俺のセクシーな胸毛を惜しげもなくさらしてくれちゃってまあ。
「いやあ……お兄さんスリリングなアバンチュール大好きだけど、ドッキリ企画はあんまり好きじゃないんだな。自分がハメるほうなら大好きだけどさ」
「その点は問題ない。なぜなら、俺はいたって真剣だからな。おお、それはもう、真剣そのものだ。悪ふざけでこんな真似ができるか。決死の覚悟を決めた上での行動だ。あ、ちなみに合意はとったからな、おまえに記憶があるかは定かじゃねえが、証拠は取ってあるぞ、この酔っ払い」
 と、プロイセンはボイスレコーダーを片手で摘んでフランスの鼻先に呈示した。無許可で録音したら駄目だろうが、と場違いすぎる冷静な思考がフランスの脳裏をよぎった。もっとも、相手の言い分がはったりである可能性はあるのだが。俺、何言ったっけな……と想起を試みるが、アルコールに浸かった脳みそはそもそも記憶の貯蔵をしてくれなかったかもしれない。最初から覚えていない事柄を、思い出せるはずもない。フランスは目の据わったプロイセンの顔を見上げた。
「いや、酔ってるのはおまえじゃないのか? 何ご乱心してるんだよ」
「俺は酔ってない。ワインは飲んでない」
「いや、絶対酔ってるっておまえ! 素面でやるようなことじゃねえだろ! もしかしてエロ大使に悪い菌でもうつされたのか? あいつ景気がいいせいか、最近とみに道を外してるからなあ」
「うるさいぞ、フランス。この期に及んで見苦しい、腹をくくれ、腹を!」
 と、プロイセンの両手がフランスの頭の両脇に置かれる。え、何この状況、とフランスは眩暈を覚えながらも、現状を打破しようと口を開いた。この際時間稼ぎでもいい。何か打開策を考えろ!
「落ち着けプロイセン! 一時の錯乱で暴走するとあとで大後悔するぞ! 俺も過去何度股間のモンスターを暴走させて、あとで痛い目見たかわかんねえ! あのイギリスの手料理を三食立て続けに食わされたことだってある! あのときはさすがに後悔した、ああ、後悔したさ! だってバイオテロの先駆けだもんな! おまえもなんかそういう事態になるかもしれねえぞ、だからやめとけ、ほんと、これ先達からの忠告だから! まじで聞いておいたほうが身のためだって!」
 フランスはもてる肺活量のすべてを駆使し、一気にまくし立てた。正直自分でも何を言ったのかわからないし覚えてもいないが、自分が相当な量の語を一息で発したということだけは理解した。が、彼の即興演説は効を奏さず、気まずい沈黙が両者の間に横たわるだけだった。やがて、頭上の男が低い声を漏らした。
「……フランス」
「は、はい?」
 嫌な雰囲気、嫌な予感を覚えたものの、結局は解決策を見つけることはかなわず、フランスはただ呼ばれた名前に返事をした。プロイセンは、すう、と息を吸ってから。
「いいからやらせろ」
 と言って、フランスのシャツに手をかけた。
「ちょ、ちょ、ちょ、待て―――――!?」
 フランスの制止の要求が、通るはずもなかった。

*****

 どのくらい時間が経っただろうが。多分、それほど経過していない。時計の針で言えば、せいぜい長針が半円を描く程度だろう。が、彼にとっては何時間にも感じられた。この感覚は例えるなら、そう、イギリス製作のB級映画を延々と見せられたなら、きっとこんな気分になるんじゃないかと思えた。
「なあ、プーちゃん、一言言っていい?」
「なんだ。あと、プーちゃんいうな、俺はどこぞのクマじゃない」
 フランスは、壁に背をつけた姿勢で、自分の肩口にある金髪頭をなんとはなしに撫でてやりながら、困ったように目を閉じた。
「おまえさ……下手くそってわけじゃあないんだけどさ……あのな、ぶっちゃけ前戯長すぎ。俺、いい加減飽きてきちゃったんだけど」
 うん、けっして下手じゃないんだけどな、と繰り返し、彼はプロイセンの頭をよしよしと撫でた。下手とは言ってないんだから傷つくなよ、と言うように。
 顔を上げたプロイセンは、眉を吊り上げてばんっとマットレスを叩いた。
「おまえはどこまでデリカシーがないんだ! 最低だな!」
「最初からデリカシーなかっただろ、これはじまってから!? いいじゃん、いまさらだろ! これじゃ中学生だぞ。おまえ、もしかしてチェリーくんなわけ?」
 結局フランスはあのあと――
 ここまで来てじたばたするのも男らしくない、潔くその挑戦、受けて立とうじゃないか! となんだか根拠の判然としない男気を出して、腹を決めたわけなのだが。
 肝心の相手が、それはもう、ちんたらちんたらちんたらちんたら……亀の歩みにも劣る進行速度なので、そろそろ苛立ってきた。こういうのはテンポが重要なんだよ、テンポが! と引導を渡したい衝動すら感じる。
「フランス、うるさい。集中しろ」
「なあ、もしそうなら、そうだって正直に言えよ? だいじょーぶ、からかったりしないって。ここまで来たんだ、おまえのその勇気を買って、お望みならお兄さん自ら、手ほどきしちゃうぞ?」
 あまりに手際が悪いというか、とにかくやることなすこと遅すぎるプロイセンに、フランスは親切心というか老婆心を発揮してそんなことを申し出た。が、それはすぐに却下された。
「お望みでないから必要ない。いらん世話を焼くな」
「ずいぶん必死だなあ。いったいどうした?」
 と、フランスはプロイセンの顔を両手で挟み、自分のほうを向かせた。相手はなんとなく不機嫌そうである。この俺とベッドにいるのにこんな顔するとは何事だ、とフランスは思ったが。
「なーんか、悩める青少年って感じの顔してるよなあ。いや、おまえそんな年でもないけどさ。なんか悩みあるなら聞くぜ? こっち方面のことならお任せあれ、だ。この愛の伝道師が手を貸そうじゃないか」
 そもそも、彼の今日の訪問理由はこんなことだったような気がする。どういう相談を持ちかけられたのかは思い出せないが、多分こっち方面だ。よし、得意分野だ、任せておけ、とフランスは胸を張ったが、プロイセンは無言だ。
「……………………」
「……だんまりか? いいけどさ、埒が明かないようなら」
 フランスは一瞬、猛禽類のように瞳を光らせた。ぐ、っとプロイセンの片腕を掴むと。
「おい?」
「俺のほうから仕掛けちゃうぜぇ?」
 側方に腕を引き、もう片方の手で彼の肩を押した。バランスを崩し、彼は簡単に背中からマットレスに倒れた。
「はあい、お兄さんのターンだよー」
 そう宣告すると、フランスはプロイセンの体に乗りかかった。プロイセンは一瞬で変化した体勢に認識が覚束ないらしく、いったい何が起こったのかと首を回してあたりを見ようとしている。が、フランスが片手を側頭部に当てて固定してきたので、それもままならない。
「え、ちょ、おい、フランス!? う、うわ、うわわ……や、やめ……」
「自分のほうから襲い掛かっておいて逃げるなよー。かっこ悪いぞ」
 そして、次の瞬間には耳元からフランスの声が伝わってきた。息の流れまで知覚できる。
「大丈夫だって、俺うまいからさあ。ほら、リラックスリラックス」
「ぎゃ、ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 軽い調子でアドバイスしてくるフランスとは裏腹に、プロイセンは断末魔の悲鳴を上げた。


ひとには言えない 2

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