「ひとには言えない」の続きです。
仏普ですが、普仏と取れなくもないかもしれないです。
まったくえろくないですが、一応ベッドでうわーな内容で、すごく品がないので、あらかじめご了承ください。ギャグだと思っていただければ幸いです。
苦手な方は絶対この先にお進みにならないようお願いします。
ホーム・オア・アウェー
パソコンのディスプレイでは、欧州の拡大地図のウィンドウが、壁紙になっているメルカトル図法の世界地図の上にかぶさるようにして開かれていた。各地名はフランス語とドイツ語の並列表記されている。フランスはマウスを小さく動かすと、話題の地名の周りをくるくるとカーソルでなぞった。
「うーん……おまえの実家、困ったもんだよなあ。ブリュッセルでもちょくちょく悩みどころになってるし」
意外にも書籍の多いプロイセンの自宅で、フランスは持参した仕事用のノートパソコンを前に、低くうなった。プロイセンは、フリードリヒ二世に関する著作物を棚に並べながら答えた。
「悪かったな、変な位置にあって。言っとくけど、あそこはもうロシアのもんなんだから、俺になんとかしろっつっても無理な話だぜ。話し合うならロシアとかリトアニア相手にやっとけ。俺じゃどうにもならん」
彼は敬愛するかつての上司に関する書き物なら、良書悪書問わずかき集めて一文字も漏らさず読むのが習慣だった。そのため自宅にはいつの間にか大王専用書棚が出来上がっていた。彼なりの分類基準で振り分けられた各棚には、カラーテープでインデックスが貼り付けられている。
フランスは、整理作業に励むプロイセンの背を眺めた。
「ま、そうだけどさ。でも、その割にまだ縁切れてないよな。ちょくちょく里帰りしてんだろ?」
「そりゃ建て直しに協力したし、いまでもしてるからな」
「一時期のヤバさが嘘みたいに元気だよなー、あそこ」
「ははははは、俺の底力を見たか。やっぱ俺ってすごいだろ」
手を止めると、プロイセンはくるりと振り返って腰に手を当てた。フランスは大仰な動作で何度もうなずいて見せた。
「うん、やっぱドイツすげえよな。おまえも含めていろいろ因縁もあるけど、仲良くしといてまじよかったわ」
「ああ。あいつはすごいやつだからな」
ドイツに感嘆するフランスの言葉に、プロイセンはえへんと胸を張った。なんという身内自慢。フランスは苦笑した。
「いまのは褒めたつもりじゃなかったんだけどな……」
そんな彼の呟きなど聞かず、プロイセンはご機嫌モードで高笑いをしている。上機嫌のおかげか、先ほどより作業がはかどっている様子だった。フランスはおもむろに立ち上がると、プロイセンの真後ろまで移動した。
「けど、その割におまえのそこは元気がないよな」
と、フランスは相手の背後から肩越しに目線を下ろした。プロイセンは、後ろに立つな、と忠告しつつ答える。
「あの街見りゃだいたい理由はわかるだろ」
「そうだなあ、立派にロシアだもんなあ」
「……って、なに手ぇ突っ込んでんだ」
「ん? こないだの続き。っていうか、再チャレンジ」
後ろからプロイセンのズボンのウエストに手を差し込んだまま、フランスが耳元で言った。プロイセンは慌てたふうもなく、呆れながら顔を少し後ろへ向ける。
「頼んでねえ。前にあんだけ試してもダメだったんだ。無駄だってわかってるだろ」
と、フランスの腕を退けさせようとするが。
「いや、前は俺のうちだったじゃん。で、今日はおまえのうち。状況が違えば結果も違うかもしれないだろ。ホームとアウェーの差って、やっぱあるじゃん?」
「ないない。条件変えたくらいでどうにかなるくらいだったら、悩んでないっての」
「へえ? その口ぶりだと、試したことあるんだ?」
フランスはにやりと口角をつり上げた。しまった、とプロイセンは内心舌打ちする。肯定しようが否定しようが、自分にとって有利にはならない。それをわかっていて、フランスは彼が答えるのをじっと待っている。
「……いや」
ちょっとためらってからプロイセンが返事をするのを聞き届けると、フランスは言質を取ったとばかりに勢いづく。
「ンなら、しらみつぶしに試してみるのもひとつの手だろ。トライアルセラピーってやつ」
「うわ、ちょっ……」
軽い調子で提案したフランスだったが、行動は少しばかり強引で、プロイセンの胴に腕を回すと、裏投げのようなかっこうで後方に重心を崩させた。そういやこいつんち柔道盛んだったな、と床に倒されたプロイセンは思い出した。くそ、不覚だ、と奥歯を噛んでいると、
「今回は床にしとく? 前回ベッドだったし。いや、でも、ホームかアウェーかの違いを見たいんだったら、ベッドにしといたほうがいいのか。実験における剰余変数はできる限り同じにしておかないと、結果を比較する際の信憑性が薄れるよな……」
突如フランスが真面目な顔をしてぶつぶつを唱え出す。それにつられるように、プロイセンも小難しそうに眉間に皺を寄せた。
そして、ちょっと考え込んだあと、
「それもそうか」
神妙な面持ちでうなずいた。
*****
「なんか、たばかられた気がする……」
「んー?」
ベッドに腰掛けたプロイセンは、体重を後ろに預け、崩れた姿勢で宙を遠く見ていた。背中はぴったりとフランスの胸についている。
「おまえって変なとこで生真面目だよなあ」
壁を背に、プロイセンを後ろから抱え込むようにして座ったフランスは、彼の肩に顎を乗せた。そして、自分の手が動いているところへと目を落とす。
「うーん……ほんっと反応ないな。これ、まじで生きてんの?」
フランスは、前回自宅のベッドで散々確認したというのに、いまだに不可解そうに呟く。ここまで何もアクションがないと、もはや珍獣か聖獣のどちらかのように思えてくる。プロイセンは抵抗するのも面倒くさいのか、投げやりに答える。
「泌尿器としては問題ねえよ。健康だ」
「ちょっと聞くけど、感覚は普通にあるのか?」
「ああ。知覚は正常だ。おまえがどこ触ってんのか同定可能だぞ」
「でも気持ちよくはない、と」
「性的な意味ではな。おい、あんま乱暴に扱うなよ、痛ぇだろが。こんなんでも一応大事なとこなんだからな」
ぎゅっと握り込まれ、プロイセンは顔をしかめた。フランスは一瞬手を緩めたが、確認するようにもう一度軽く握力を込める。聞いてるのか、とプロイセンがフランスの額を指先で叩いた。
「ふうん、痛みも感じるんだな」
「だから、知覚は正常だっての」
「ふむふむ」
フランスは情報を確認しつつ、
「……なんで病院の問診みたいなことになってんだろな。お医者さんごっこしてるわけでもないのに」
むなしそうに長嘆した。
「ここまで盛り下がる『ごっこ』遊びは流行らないだろうがな」
「不思議だな。なんで感覚まともなのに、快感につながらないんだ?」
「それがわかったら多少は対処のしようがあるだろうよ」
プロイセンは肩をすくめた。すでに事実を打ち明けた相手という気安さがあるのか、前のような必死さはなく、むしろ冷静だった。フランスもまた、改めて彼の状態を観察している。
まあ、攻撃されなければ別にいいか、とプロイセンは相手の好きにさせてやった。この体のことはもう知られているし、散々いじり倒されもしたので、なんかもう、いろんなことがどうでもいい心持ちだった。
→ギブ・アンド・テイク
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