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一応仏普です。
冒頭から脈絡もなく合体しているのでお気をつけください。
あまり攻めっぽくない仏とあまり受けっぽくない普が色気もなくやってるだけの最低の話です。
品がないので、高校生以下の方にはあまりおすすめできない内容です。

しょっぱなからアレなので、一応下げておきます↓





















まっくらな昼下がり



 真っ昼間だというのに、視界は見事に真っ暗だった。密着している相手の位置さえ視認は不可能だ。真っ暗闇の中で、わずかに顎を持ち上げてひくりと喉を鳴らし、空気のよどみをそのまま肺に取り入れる。酸素不足のためか、軽い頭痛を覚えた。
 脚に感じる他人の皮膚の温度や微妙な湿り具合がいやに生々しい。プロイセンは、不安定な片足立ちのまま背中を壁面につけて必死で姿勢を維持しようとする。が、相手が寄りかかってくるために、いまにも膝が崩れそうだった。
「あっ……ちょ、てめ、体重掛けてくるんじゃねえよ」
 負荷のかかる肩甲骨が少し痛い。彼はフランスの肩に手を当てると、ぐっと押し返した。もっとも、バランスの悪さからうまく力が入らないのだが。
 フランスは、空中で曲げられたプロイセンの左膝を自分の腕に引っ掛けた状態で、もう片方の手を壁についてなんとか転倒を防ぐ。
「そうは言われても、重心崩れちまったんだから仕方ねえだろ」
 暗い上にとんでもなく狭い空間は、大人二名が収まるには厳しいものがあった。しかも彼ら以外にも、やたら物が詰まっている。幸いどれも柔らかいものばかりなので、ぶつかっても痛くないが。
 プロイセンは右脚がじわじわ痺れてくるのを感じ、非難がましく叫んだ。
「だ、だいたい、立ったままってのが無茶ありすぎんだよ……!」
「でもここで寝そべるのって物理的に不可能じゃね?」
 崩れた体勢を立て直そうと、フランスが上半身を後傾させて身を起こした。いくらか反動をつけたため体が揺れる。その振動は、文字通り密着しているプロイセンにも直接伝わる。
「あうっ……!」
「あ、ごめん、痛かった?」
 位置の微妙な変化がまずかったのか、プロイセンが短く苦悶の声を上げた。完全に真っ暗闇なので表情は窺えないが、おそらく眉をしかめているだろう。フランスは姿勢変換をひとまず諦め、動きを止めた。プロイセンは彼の肩を握ると、浅い呼吸の合間に悪態をつく。
「……はあ、はあ……て、てめえ、この下手くそ!……ぅあ!」
 怒りの勢いに任せてフランスの頭をがくがくと揺さぶったが、その効果は結局自分にも跳ね返ってくることとなった。彼の頭と一緒に自分の体も揺れる。苦しげに乱れたプロイセンの呼吸音を聞きながら、こいつほんとに馬鹿だな、とフランスは思った。もっとも、プロイセンの横暴は彼にとっても苦しいものがあったのだが。脳髄を軽くシェイクされたフランスは眉根をしかめながら、
「ん……ごめん。……あ、はぁ……い、いまのは俺のミス」
 壁についた左肘を基点として腕を移動させ、プロイセンの頭を宥めるように軽く撫でた。
「う……ぁ、ん……も、もういやだ……脚攣りそうだ……」
 一本で体を支持している右脚がかすかに震える。連動してか、浮かされた左脚がもぞりと動く。フランスはプロイセンの脚を落とさないよう抱えなおした。大腿部の筋肉がぴくぴく痙攣しているのが触覚を通じて感じられる。
「おまえ体硬いもんなあ。――ん!」
「あっ!」
 フランスが瞬間的に上方に力を加えた。浮遊感とそれに続く落下感に、プロイセンが短い悲鳴を漏らす。フランスは少し腰を落として位置を低くすると、彼の脚を自分の肩に引っ掛けさせた。支持面が増えたことで、脚の位置が安定する。
「ん、はあ……これでどう? ちょっとは楽じゃね?」
 フランスもまた呼吸のリズムを崩しながら、相手に尋ねた。
「て、てめえ……まだやるつもりか」
 文句の代わりに、プロイセンは左の踵でフランスの背中を蹴った。
「いや、だってさ、この状態だと抜くに抜けないじゃん? 体勢的に不自由だし、おまえ脚に力はいってるから緊張緩まねえし。ぶっちゃけキツすぎるんだ」
「ちくしょー! だから立位は嫌なんだ!」
 やけくそになったのか、プロイセンがなかば根を上げるように叫ぶ。そして、駄々をこねる子供のように左右の肩を交互に持ち上げながらばたついた。
「うーん、もうちょい柔軟性があるといいんだけどなあ、お互いに」
「わかってんなら最初から無謀な挑戦なんざすんじゃねえ! なんだよ抜けないって!」
 プロイセンは何が何でも相手から離れようとその場でもがいた。ケンケンをするように片足で反動をつけて逃れようとするが、体に揺れが生じ、逆効果だった。彼はますます息を粗くしながら、ほとんど半べそでうめいた。
「く、くそぉ……フランスてめえおぼえてろよ……くっ、あぁ、ん……」
「だ……だっておまえ……うっ……めっちゃ力、入ってるじゃん……はぁ……こ、これでどうやって、離れろと……」
 道連れにされたフランスが、奥歯を噛んで堪えながら苦しげに答える。そしてプロイセンの肩を撫で、脱力を促す。
「おまえさ、もうちょいでいいから力抜けない?」
「この体勢でどうしろってんだ! おまえが無茶するのが悪い! むしろおまえの存在自体が悪い!」
 正論といえば正論、八つ当たりといえば八つ当たりな主張を叫び散らし、プロイセンはがむしゃらにその場で足掻いた。浮いた左脚がじたばたと虚空に奇跡を描く。闇の中、それを見て取ることはできないが。
 暴れ出したプロイセンの動きはフランスにも伝導し、悲鳴を上げさせた。
「いだっ! ちょっ、それは痛い、俺が痛い、まじで痛い! やめて! ほんとやめて! 俺泣きそう!」
 情けなく訴えてくるフランスに、プロイセンが噛み付くように言い返す。
「俺だって痛ぇよ馬鹿ぁ!」
「じゃあやめてよ! ほんと痛いからこれ!」
「無茶言うな! こっちは必死なんだ!」
「うぁ……っ! ちょ、これまじやばいって……!」
「あっ……! んん!……く、う……!」
 協力体制を取らないまま互いに相手から距離を取ろうとめいめいにもがくが、いかんせん、真ん中でがっしりくっついてしまっているのでままならない。
 しばらくそうしてばたついていたが、すべては徒労に終わった。密閉に近い空間内の気温と湿度は徐々に上昇し、皮膚にまとわりつく湿った空気がなんとも言えず気持ち悪い。
 フランスは長々とため息をつくと、別の方策に切り替えることにした。
「仕方ない。なんとか座ってみるか。ちょっとはバランス取りやすくなるかも」
「座って……?」
 ぐったりと疲れきった声音でプロイセンが復唱する。フランスの提案の内容を呑み込めていないようだ。きっと疲労を満面ににじませているに違いない。
 フランスはそれ以上は説明せず、暗闇の中、相手に見えっこないと理解しつつ、不敵に微笑んだ。まあ任せとけよ、とばかりに。
 疑問符を浮かべているらしいプロイセンを無視し、彼は唐突に膝を折ると、すとんと腰を落とした。
「……ぁぁああああ!?」
 急激な落下のあと、体の奥に衝撃が走る。瞬間的には事態を把握できず、プロイセンは素っ頓狂な悲鳴を上げた。
「ん……よし、なんとか座れた……はー……」
 どうにか座位を確保したフランスはほっと息を吐いた。一方プロイセンは、フランスの胴を跨ぐような体勢で膝を折って彼の上に中途半端に座り込み、浅い呼吸を続けている。
「あっ、あっ、あっ……」
 苦痛をやり過ごそうと無意識のうちに相手の頭を抱きこむようにして肩にしがみつく。
「ん……もうちょっとこっちに体重掛けても大丈夫だぞ」
 プロイセンの不自然な姿勢を緩和してやろうと、フランスはほんの少し身じろいだ。プロイセンは苦しいながらも相手の意図を察し、ゆるゆると腰を落として座っていった。
「んっ!……くぅ……っ、んっ……あ、ぁあ!……ぅん、はぁ、はぁっ……」
「ぅん……は……どお? ちったぁ気持ちいい?」
「い……痛くは、ねえ。さっきより」
 フランスの首にしがみついたまま、プロイセンが長く息を吐いた。フランスは彼の背をさすりながら、やれやれと肩をすくめた。
「はあ……おまえの場合、照れでも意地でもなんでもなく、ほんとにそのとおりの感想なんだろーなあ……なんかちょっとめげそう。ん?……『さっきより』ってことは、まだ痛いのか?」
「……別に」
 低く答えるプロイセン。フランスは呆れたため息をついた。
「はあ……おまえはまったく……。ってか、俺がこんだけあれこれやってんのに全然気持ちよくなんないなんて、おまえまじでかわいそうだな。超同情」
「うるせえ。同情するならもっとうまくなれ」
「俺にそれ言うかな〜」
 先ほどより体勢に無理がなくなったためか、互いに余裕が出てきたらしく、彼らは暗闇で向かい合ったままぶつぶつと話しはじめた。
「だいたい、なんでこんな狭いとこでやんなきゃいけねんだ。それがそもそもの間違いなんだよ。こういうプレイしたいなら体の小さいやつ誘え。体格差がないもん同士じゃきついだけだ。せめて逆ならなんとかなったかもしれねえけどよ。俺のが筋力あんだし」
「そりゃ筋力を決め手にするならそのとおりだけどさ、おまえに俺のポジションは無理だろ。おまえ肝心のところがダメダメだからさあ」
「ダメダメとか言うな! 気にしてるっつってんだろ!」
 シャーッ、と猫の威嚇のように肩を怒らせるプロイセン。が、それも一秒ともたなかった。
「うぎゃ!?」
「ほんっと、徹頭徹尾しおれてるよな〜。いっそ見事だ」
 それはもう大事なところを遠慮なく握り込まれたプロイセンがひしゃげた悲鳴を上げる。
「痛ぇ! 掴むな! 痛覚はあるんだぞ!」
「ああ、悪い。でも真っ暗で見えないんだからよ、こうやって確かめるしかないだろ? うん、相変わらずばっちり萎えてるな!」
「てめえは〜〜〜っ!!」
 朗らかに報告するフランスに神経を逆撫でられたプロイセンは、よっぽど相手に噛み付いてやろうかと思った……が、病気になったら嫌なので諦めた。
 フランスはぽりぽりと頬を掻くと、困ったように宙を仰いだ。先ほどから頭に当たっている厚い布地が耳をかすめるのが少しこそばゆい。
「うーん、しかし、ここでも駄目かあ……」
「ここでもってなあ……おまえ、普段よりやりにくい状況なんだから当然だろ」
 明らかにひとを収容することを目的としていない空間で、プロイセンはぼやいた。が、フランスはふるりと頭を振った。
「いや、場所そのものを言ってるんじゃなくてだな」
「はあ?」
 怪訝な声を上げるプロイセンに、フランスはにやりと口角をつり上げた。一筋の光も差さない暗闇だったが、プロイセンはなんとなくそれを察し、嫌な気分になった。
「……なんだよ」
「や、だってさ、ここ、ドイツの部屋じゃん?」
 さらりと告げられたフランスの言葉は、いまさらながらプロイセンに現状の異様さを思い出させた。
 ああ、なんでよりにもよってこの部屋でこいつとこんなことに……!
 プロイセンは壁に頭をぶつけたくなった。
 もちろん、フランスの頭を、である。


招かれざる来客

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